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ビールの基礎知識

ビールについて。あるいはその多様性

ビールと言えば、仕事が終わって冷蔵庫からキンキンに冷やした缶ビールを取り出してグーッと飲む・・・。あるいは居酒屋さん等で今日も聞こえてくる「取り敢えず、生で」そんなイメージで語られるのがほとんどではないでしょうか。
数千年に渡る歴史を持つビールを一口でこれ、と定義するのは難しい所があるのですが、大雑把に言って「麦芽を主原料としたおもに発泡性の醸造酒」になるかと思います。ただし、麦芽を用いないビール(と言っている)もありますし、弱発泡や無発泡のビール、あるいは蒸留とまで言わないにしろそれに近いビールもあります。
事程左様に様々な種類のビールがあるわけですが、日本で主に飲むことのできる大手のビールはそのうち1種類、「ピルスナー」とよばれるものしかありません。冒頭に挙げたキンキン、グーッと、で理解されているビールですね。
国や団体によって若干違いがありますが、ビールは80程度の種類があり、大別すると2+1種類にわかれます。発酵の際、「下面発酵酵母」を用いる「ラガー」同じく「上面発酵酵母」を用いる「エール」、その他「自然発酵ビールや他の酒で用いる酵母のビール」です。スーパーやコンビニ等で販売されている大手のビールはそのほとんどが「ラガー」に属する「ピルスナー」というわけです。

生ビールって?

ところで日本の大手ビール会社の作るビールはそのほとんどが「『生』ビール」となっています。「生」ビールくらいちょっと誤解されてるビールもないと思うのですが、日本の決まりではビールの酵母を「加熱処理せず、濾過したもの」を生ビールと呼称して良い、となっています。
ビールというのは麦芽を茹でた麦汁に酵母を添加し、醗酵させて作ります。その後ビン詰めや缶詰にする際、酵母が残ったままだと更に発酵が進んだりビールの濁りの原因となったりするので酵母の活動を止める必要があります。(逆に酵母を入れて瓶内で更に醗酵させるビールだってあります)
その際、牛乳などの殺菌にも利用される低温殺菌を施す処理が一般的だったのですが、1960年代にサントリーがビール事業に再参入する際、アメリカのNASAが開発したマイクロフィルターを利用して麦汁から酵母を濾過して取り除き、「ビールに加熱処理をしていないから生」という宣伝文句を使いました。
日本酒の生酒と違って加熱処理だろうが濾過だろうが、ビールの味わいそのものにはほとんど違いがないのですが、日本人の鮮度好み(活きのいい魚は刺身が一番とか)をうまく利用したこのビールがヒットし、他社も加熱処理からフィルターを使用した濾過を行う「生ビール」へと移行していきます。つまり瓶だろうと缶だろうと樽だろうと中に入ってるビールは全て「生」ビールというわけで、ビアサーバーから注がれるお店のビールが「生ビール」というわけではありません。(その昔樽のビールは加熱処理をせず、何も手を加えない状態のビールが提供されていたようでその名残で生と呼ぶようになっているそうです。)
その後日本の大手ビール業界は容器にこだわった「容器戦争」やどこもかしこもドライだらけになった「ドライ戦争」を経ていくわけですが、いずれにせよイメージ先行型の宣伝が進み、ビールというのは「キンキンに冷えたやつを喉越しだけで味わう」いう大変狭い選択肢しか存在してなかったのです。

ビールの歴史

さてそんなビールですが、記録に残っている限りでは古代オリエント文明までその歴史を遡ることができます。メソポタミアでは有名なハンムラビ法典にもビールに関する記載があったそうです。
また古代エジプトではピラミッド建設に従事している労働者に対し、報酬としてビールがあったと言われています。
無論現代のビールとはその趣をかなり異にするわけですが、「麦芽を主原料とした醸造酒」ではあった(あるいは大麦からパンを作り水に浸して醗酵させた)と考えられています。

時は過ぎて、ヨーロッパ

ヨーロッパでは主にゲルマン民族によってビール造りが進められます。ローマなどの南ヨーロッパにもビール造りは伝わっていたと考えられていますが、ぶどうが取れる彼の地ではワインが出来るわけで、わざわざ麦を麦芽にする(麦そのものでは醗酵しない)ビールはぶどう栽培のむずかしい北ヨーロッパで主に発達しました。
5世紀頃、現在のイギリスに当たる地域では「ミード」(蜂蜜を醗酵させた酒)という酒がありました。ゲルマン族の中のアングロ・サクソン族が移動してくると彼らのもたらしたビールをそれまでのミードと区別し「エール」とよばれるようになり、大陸とは又違う進化を遂げていきます。

ホップの登場

現在ビールの原材料として欠かせないのが「ホップ」です。が、当時のビールは様々なハーブ類を調合し、ビールの原料としていました。
9世紀頃、ドイツでホップの効用が次第に認知され始めやがてヨーロッパ各地に伝わっていきました。
ただし、イギリスでは様々な利権等がからみ16~7世紀頃までホップの使用が遅れていました。ホップには主な効果として「殺菌・抗菌作用」「ビールへの苦味」「香りづけ」とあり、まさにビールのための植物とも言えます。

ラガーの発見

ビールは前述の通り、「エール」と「ラガー」に大別されますがこのうちラガービールの誕生は比較的最近(15世紀頃)のことです。
アルコール度数の低いビールは夏に醸造するとその気温のせいでうまく醗酵しない事が多かったようです。そこで、秋に洞窟の中でビールを仕込み春頃に出してみたところそれまでのビールとは又違った味わいのビールが出来ました。そこで「貯蔵する・熟成する」という意味で「ラガー」とよばれるようになりました。

ビール純粋令

16世紀頃のバイエルン地方では、ビールの粗製濫造が行われており、また当時の貴重な食料の一つであった小麦までビール製造に用いられていました。そこで原材料を「麦芽・ホップ・水」(後に酵母も追加される)に制限する「ビール純粋令」が発布され、バイエルン地方のビールは著しくその品質を高めていきます。

ピルスナーの誕生

19世紀に入るとプロイセン王国を中心としたドイツ地方では統一が進み、バイエルン公国のビール純粋令が統一ドイツ全土に適用されるようになりました。これによって「ビールの本場ドイツ」が生まれます。
また、ホップの使用が遅れたイギリスですがエールビールを独自に洗練させていきこちらもまた、「ビール王国」を築いていきます。同じくこの頃、狂犬病のワクチンで有名なフランスの化学者パスツールによってビールの発酵が酵母によってもたらされ、その種類が上面発酵と下面発酵にわかれるというのも分かって来ました。生ビールのところで説明した加熱殺菌もパスツールの考案で殺菌法を彼の名を取って「パストリゼーション」と呼びます。

その頃チェコのプルゼニ(ドイツ語読みでピルゼン。)ではバイエルン地方からヨーゼフ・クロルという醸造家を招き、独自のラガーを作り出そうとしていました。
当時のボヘミア(チェコ)のビールは品質が低く、先進のラガーを作り出しているバイエルンの技術を学ぼうとしたのです。
当時からホップの産地として有名なザーツ地方のホップ、そのころ開発された淡色の麦芽等を用いた結果(二日酔いのクロルが濃色の麦芽を使い忘れたという逸話も)、それまでにない黄金色のビールが1842年にピルゼン市民醸造所で誕生します。それが「ピルゼンの」という意味のビール、ピルスナーです。それまでのビールと違う、刺激的な味わいと喉ごしとキレ。
おりしもその頃のヨーロッパで流行したガラス製品と冷蔵技術によってピルスナーは瞬く間にヨーロッパ中を席巻しました。

日本のビール

幕末に入ってきたビールですが、日本でビール会社が作れれるのは明治以降です。
当初数百ものビール会社が日本中に出来ましたが、当時の軍備増強の政策によりビールに莫大な税金がかけられるようになり、中小の起業の淘汰が進み、ヱビスビールを作る日本麦酒、大阪麦酒(アサヒビール)、札幌麦酒(サッポロ麦酒)、麒麟麦酒(キリンビール)が生き残ります。
その後、日本麦酒と、大阪麦酒、サッポロ麦酒の三社は合併して、大日本麦酒となるのですが更に「アサヒビール」と「サッポロビール」に分割されました。その後サントリーも参入し、大手4社+オリオンビールとなりました。

エールとラガー

前述のとおりビールを大別するとエールとラガーがあります。
ビールの作り方として、まず麦をわずかに発芽させ麦芽を作ります。その麦芽を茹でて糖化させ、ホップを添加し苦味を付けます。その後麦汁(ウォートと呼ぶ)を冷まし、酵母を投入します。酵母はウォートの中の糖を食べ、アルコール発酵を行いますがこの発酵が終わり下に沈む酵母を下面発酵酵母(ラガー酵母)と呼び、上に浮かんでくる酵母を上面発酵酵母(エール酵母)と言います。
またベルギーのランビック地方で作られるビールは、醸造所に住み着いている酵母を利用し自然醗酵させるのが特徴で、乳酸由来の酸味のあるビールとなります。またシャンパン酵母を用いたビールや日本酒の酵母を用いたビールもあり、その味わいは実に様々なものがあります。

エールの中にも様々なスタイルがあり、ラガーの中にもまた沢山のスタイルがありますが、物凄く大別するとスッキリ系の味わいが多いラガーと、複雑な味わいが楽しめるのがエール系となります。
(このあたりは是非「スタイルについて」も参照してください。)
また酵母はアルコール度数が高くなると死滅しますが、特にビールの酵母は弱くラガー系だと10%以上のビールを作るのが難しくなります。(因みにラガー系ビールで一番度数が高いのはオーストリアのサミクラウス:14%)
なお、現在世界最強の度数のビールはクラフトビール界の世界のカリスマ、スコットランドのBrewDogの「The End of History」で55%もあります。(更に因みにこの人たちは過去にも「Tactical Nuclear Penguin(戦術核ペンギン)32%」やドイツとの度数戦争に繰り出した「Sink The Bismarck」(ビスマルク(=ドイツの戦艦)を沈めろ。41%)といったビールも発表してます。やりすぎ。)
2013/11/18追記:現在世界最高アルコール度数のビールはブリューマイスターの「アルマゲドン」で、アルコール度数は65%!
2014/01/14更に追記:同じくブリューマイスターがまたやりました。「Snake Venom(スネークヴェノム)」度数は67.5%!もうええやろ

アロマとフレーバー

ビールには様々な香りがあります。その主な由来となるのは酵母や麦芽ですが、一番感じやすいのはホップのアロマでしょう。特にアメリカのクラフトビールではこの傾向が強く、カスケード種のホップの柑橘のような香りが支配的なビールが多いのが特徴です。他にもエステル香と呼ばれる酵母由来のフルーティーな香り(バナナのような香り)や、焙煎した麦芽由来の香りなどもあります。
味わいで最もユニークなものの一つがベルギーの「ランビック」や「フランダースレッドエール」と言うスタイルのもので、酸味が持ち味のビールです。
しかしながら酢酸の酸っぱさではなく、深い味わいがありその中で麦の甘みなども感じられたりする実に面白いビールです。他にも、ウィスキーの樽で熟成させるビールも実に様々、かつ芳醇な味わいが楽しめるビールです。
外観についてはビール=ピルスナーの日本では「黄金色」のイメージが強いと思いますが、より深く焙煎した麦芽を使うビールはダークな色合いを持つものがあります。(寧ろピルスナーが発明されるまではもっと濃褐色のものが普通のビールだったようです)フランダース地方のビール「レッドエール」のようなビールもあり、様々な色が楽しめます。

*いわゆる「黒ビール」について よく濃い色のビールをさして十把一からげに「黒ビール」と言いますが、正確には黒ビールというスタイルはありません。 敢えて言えばドイツの「シュヴァルツ」が黒ビールと言えますが、色が黒いビールというだけならば「ポーター」「スタウト」「スコッチエール」「デュンケル」等あり、それぞれ味わいも違います。(但し日本の法律では黒ビールの規定はかなり甘いのですが、日本地ビール協会等ではきちんとガイドラインを定めて規定しています。)

さらに詳しくは・・
→ビール用語集
→スタイルについて
→ビールを楽しもう!